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【SOPHIA PROFESSIONAL STUDIES スペシャルトーク】国際連合広報センター長 根本かおる氏による講演会を実施しました(2021年12月7日)

2021年12月7日(火)午後6時30分から、上智大学プロフェッショナル・スタディーズでは、スペシャルトークとして国連広報センター長を務める根本かおる氏をお招きし、講演会「SDGsの現在地とこれから:『仕組み』レベルでの変革を」を上智大学四谷キャンパス6号館101教室で開催しました。
スペシャルトークは、混迷を続ける社会のグローバル化に焦点を当て、各分野の専門家や著名人を招きながら、グローバル経済の動向、国際関係の行方、グローバルリスクなどの喫緊の課題にアプローチすることを目的にしています。

講演に先立ち、上智大学学長の曄道佳明氏が挨拶を行いました。曄道氏はこれまでの上智大学と国連とのつながりについて触れ、その連携に協力する根本氏に感謝の意を伝えた上で、本講演がSDGs(Sustainable Development Goals)に注目が集まる昨今において、我々がどこへ向かっているのかを改めて整理する機会になるはずだ、と期待を述べました。

講演の冒頭、根本氏は、2021年9月に発表されたアントニオ・グテーレス国連事務総長による報告書『私たちの共通の課題(Our Common Agenda)』を引用しながら、時代と歴史の転換点にある我々の選択が、さらなる「ブレークダウン」を招くか、あるいは、より安全な未来への「ブレークスルー」をもたらすかを決めるとし、今日を生きる我々の世界観・価値観が、将来に対していかに大きな影響を与えるかを強調しました。そしてその上で、国連憲章が「われら人民は(We the Peoples)」という言葉から始まるように、世界の市民ひとり一人が国連をつくる構成員だとし、日本の人々もその例に漏れないことを主張しました。

国連と日本のつながりは、さまざまな観点から見ることができます。たとえば根本氏は、世界の中で、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国連、そして日本が、どのような役割を果たすべきかを常に現場から考えてきた上智大学名誉教授の緒方貞子氏。また、現在でも、国連コソボ暫定行政ミッション(UNMIK)ベオグラード事務所長を務める上智大学卒業生の山下真理氏など、国連の中心部分で活躍する日本人の存在を紹介しました。
さらに、より大きな視点から、根本氏は、これまで日本が安全保障理事会の非常任理事国を世界最多の11回務めてきたことや、唯一の戦争被爆国として平和や核廃絶に向けたリーダーとしての立ち位置を確立している点も振り返りました。根本氏は、近年、とりわけ日本の防災とUHC(Universal Health Coverage)分野への深いコミットメントが評価されている点にも触れ、実のところ、2つの大きな国際合意であるSDGsとパリ協定の発射台は2015年3月に仙台で開催された国連防災世界会議であったこと、国連国際防災戦略事務局 (UNISDR)のヘッドを日本人の水鳥真美氏が務めていること、日本がUHCフォーラムの議長国を務めたことを例に挙げ、国連と日本の多様で深いつながりを強調しました。

 根本氏は、講演のメインテーマであるSDGsのキーワードは、①「変革」、②「誰ひとり取り残さない」の2つであると説明しました。SDGs達成のためには、先進国を含め、経済・社会・環境の3つを統合的に捉えた上で、社会システムの転換・変革が必要であり、取り残されがちな弱い立場にある人々の存在を救い上げるようなシステムの設計が欠かせないのです。
2020年、SDGs達成のための「行動の10年(Decade of Action)」が開始した矢先に直撃したパンデミックは、あらゆる場面で危機を招き、SDGs達成にも負の影響をもたらしています。根本氏は、リーマンショック時さえ上昇傾向だった国連開発計画(UNDP)の発表する人間開発指数(Human Development Index)が、2020年においては、大きくマイナスに転じた事実を説明しました。しかし根本氏は、この事実と同時に、現在、パンデミックを通して「命」について見つめ直す人々が増えており、さらには、弱い立場に置かれた人々が可視化されたことで、「誰ひとり取り残さない」というSDGsの大原則への共感が強まっており、社会におけるSDGsへの関心は高まっている——すなわち、それは「変革」へのチャンスでもあると参加者に語りかけました。
同様のことは、若者世代に焦点を絞ってもいうことができます。言うまでもなく、パンデミックはすべての世代に衝撃を与えましたが、とりわけ「ロスト・ジェネレーション」と擬えられることもある若者世代へのショックは計り知れません。根本氏もまた、パンデミックが与えた若者世代への負の側面を慎重に確認しながら、他方で、世界をよりよくするために立ち上がる若者も少なくないとし、2021年9月に国連総会に出席した韓国のヒップホップグループ「BTS」の言葉を引用しながら、現代の若者は大きな課題に対しても、立ち向かい、解決策を提示する可能性をもった「ウェルカム・ジェネレーション」なのだ、と希望を見出しました。

 また根本氏は、講演の後半、取り立てて気候変動の話題に触れ、気候変動のもたらす暮らしへの影響は甚大で、国連事務総長が、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)第6次評価報告書を「人類への赤信号(Code Red)」と評価していることを取り上げながら、その深刻さを訴えました。根本氏は、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議 (COP26)に合わせて開催された「The World Leaders Summit」の会場は、「We can do this if we act now」という文字で埋め尽くされていたことを参加者に紹介しました。
そして根本氏は、こうした国際潮流の一方で、日本においては「人間活動が気候変動に影響を及ぼしている」という認識が十分に広まっていない現状に懸念を示しました。また根本氏は、本来、生活の質を高めるポジティブなものである気候変動対策に対して、日本では義務感や負担感のイメージが強く、「気候変動対策のために自分のライフスタイルを変えてもよい」と思っている人の割合が著しく低い事実も提示し、このような日本の人々の意識の背景には、日本の人々が、「自分と社会とのつながり」あるいは、「自分が社会を変えることのできる可能性」を認識できていない可能性があると指摘しました。とはいえ、先述した通り、世界を主体的に変えていこうと行動する日本人は少なくありません。根本氏は、日本の人々の意識を変えていくためにも、日本人・日本の若者の活躍に一層注目する必要があると主張しました。
 講演最後に根本氏は、「『Act Now』、『今』こそが、選択、決断、行動のときです」と、参加者に力強いメッセージを送り、講演を締めくくりました。

 その後、会場からは、多くの質問が出され、根本氏はその一つ一つについて熱心に応えました。「地球は常にバランスを取るように動くものであり、気候変動も自然の摂理の一つだと捉えれば、それを止める必要はあるのか」という質問に対して根本氏は、「温室効果ガスによる悪影響の皺寄せを受けているのは、それに加担せず、責任をもたない小さな島国や若者・次世代、貧困層であることを理解する必要がある」とした上で、「世代間・地域間・階層間の正義を意味する『気候正義(Climate Justice)』を達成するためにも、力の原理とは別に、自分が関わっていないところへの影響・痛みを想像する力が必要であり、そういった想像力を養う枠組みの一つにSDGsがある」と回答しました。
また、「化石燃料から再生可能エネルギーへの移行にあたって生じる、雇用喪失や資金不足の問題とのジレンマをどう解消できるか」という質問には、「ビジネスモデル変革に際して『公正な移行(Just Transition)』が行われることを保証し、短期・中期・長期の視点をすべて踏まえて、今後の指針を考えるべきだ」と述べました。

会の最後、このように貴重なお話をお聞かせいただいた根本氏への謝意が今一度伝えられ、拍手の中、会は終了しました。
(学生職員 Kirara)