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第2回「人間の安全保障と平和構築」コロナ禍でNGOが挑む平和構築 〜アフリカ、南スーダン、難民支援、アフガン〜 2021年5月18日 実施報告

2021年5月18日(火)午後7時05分から、上智大学グローバル教育センターが主催する連続セミナー「人間の安全保障と平和構築」の2021年度の第2回目が、オンラインにて開催されました。全世界から290人を超える参加がありました。

この連続セミナーは、人間の安全保障と平和構築に関し、日本を代表する専門家や政策責任者を講師としてお迎えし、学生や市民、外交官やNGO職員、国連職員、政府職員、マスコミや企業など、多様な分野から集まった人たちが、共にグローバルな課題について議論を深め、解決策を探っていくことを目的にしています。

本年度第2回目のセミナーでは「コロナ禍でNGOが挑む平和構築」をテーマに、日本国際ボランティアセンター(JVC)代表理事の今井高樹氏、ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)の相島未有沙氏、平和村ユナイテッド理事の加藤真希氏が講演しました。

鳥居会長

会の冒頭、上智大学ソフィア会会長の鳥居正男氏、学術研究担当副学長の岡田隆教授、上智学院総務担当理事のサリ・アガスティン教授が挨拶をしました。上智大学ソフィア会は、本年度の連続セミナー全てについて、後援して下さっています。鳥居会長は、現在の世界情勢を踏まえ、「政治の混乱や対立、自然災害、環境問題、深刻な貧富の差、分断の広がりなど難題が山積みな中で、本セミナーが日本の役割について考える機会になって欲しい」と述べました。

岡田副学長

岡田副学長は、パンデミックにより現場での支援に様々な制限がある中で、活動を続けられている講師の方々に敬意を表すとともに、リアルタイムで多くの人々が繋がれるオンラインの利点にも触れ、「高校生の方も含め、参加者の皆さんにぜひ活発な議論をしていただければと思う」と述べました。

サリ教授

サリ教授は、2017年に本連続セミナーが、学内で学生から最も高い評価を得た授業に送られるグッドプラクティス賞を受賞したことを紹介しました。そして、本学の教育精神である『他者のために他者とともに』という考えを述べ、「今後の平和構築の課題やあるべき姿について議論を深め、平和構築に少しでも貢献できるよう願う」と語りました。

今井氏

最初の講演を務めた国際日本ボランテイアセンターの今井氏は、2007年からJVCに勤務し、南スーダンとスーダン共和国に合わせて10年間駐在されました。冒頭に、アフリカにおける新型コロナウイルスの感染状況を説明し、他大陸と比べ相対的に感染者は少ないものの生活への深刻な影響が出ていると指摘しました。今井氏は、「都市部の貧困層や、難民キャンプの人々などに特に影響が出ている。移動ができず、日雇いの仕事ができないという人が多くいる。また、路上ビジネスもできない。難民キャンプでは、難民の方は移動しながら別の難民キャンプに食料をもらうことも多く、ロックダウンの中でそういったこともできない。さらに、人道支援活動の一時的な停止・縮小もあった。これは、国際的な支援の縮小や、スタッフの移動が制限されたことによる。ストレスが増え、DV(家庭内暴力)も深刻化している。教育への影響も大きく、学校が一年近くにわたり閉鎖され、子供たちへの影響も出ている。そして、食料価格も高騰し人々の生活をより一層圧迫している」と述べました。保険医療への影響に関しては、「保健所が閉鎖され医療へのアクセスが制限されているだけでなく、コロナ対策による負荷がかかり、はしかやマラリアなどの既存の感染症への対策が十分にできなくなっている」と述べ、アフリカ特有の困難についても指摘しました。

高所得国によるワクチンの買い占めにも触れ、「COVAXという先進国が共同で資金を拠出するワクチンの国際枠組みができているが、COVAX で調達できるのは途上国の人口の20%ほどと言われている。生産拡大のために、知的財産権の一時停止をNGOが提言している。また、ワクチン接種を行う政府への不信感があり接種が進まない国もある」と述べました。そして、コロナ禍においても紛争や武力衝突は止まっていないという現状にも触れ、極めて困難な状況下でのNGOの対応について、「コロナが始まった最初の段階では、全体的に感染防止のための支援として衛生用品支援や啓発活動を行った。そして生活の危機に対する支援としては、緊急食糧支援や生活物資支援を行った。一方で、コロナ対策への過度の集中に対する危機感というものがある。教育や生活向上、難民支援、紛争予防など他の活動分野に大きなしわ寄せが出て、かえって大きな犠牲が出ることを避けるために、コロナ対策と並行してそれまで実施していた活動を止めない努力を多くのNGOがしてきた」と説明しました。

2020年2月に和平合意が結ばれ、暫定統一政府が発足した南スーダンでは、武装グループ間の衝突が未だ絶えず、国民の約三分の一が難民・避難民として家を追われている状況にあります。南スーダンでの日本国際ボランティアセンター(JVC)の活動について今井氏は、イーダ難民キャンプにおけるスーダン難民の支援が主だと説明し、パンデミック前後での活動内容の変化について以下のように述べました。「コロナ以前は、戦闘の中で離散してしまい保護者不在となった子供たちに支援を行なっていた。具体的には、学校への復帰支援、給食支援、補習教室やスポーツ支援があった。しかし、コロナの影響で昨年4月に行政の指示で活動を停止せざるを得なくなり、キャンプ内の学校も閉鎖となった。子供たち、特に保護者がいない子供たち、がばらばらになってしまった。学校に行っている間は活動がたくさんあるが、そういったものがなくなるとキャンプの中で軽犯罪に巻き込まれる可能性が高くなる。女子の妊娠の増加や、男子の場合では武装勢力への加入も見られた。なんとか行政と交渉し活動の再開を訴え、数ヶ月かけて徐々に活動を再開した。今年4月に小学校が再開し、ある程度元の状態に戻ってきた。今後も子供達が離散した保護者を探す再統合の活動も行なっていく。新たな紛争の芽にならないよう、子供達が教育を受け武装勢力に加入することのないように支援を行なっていくことが重要だ。」

相島氏(一番右)

続いて講演を務めたピースウインズジャパン(PWJ)の相島氏は冒頭に、1996年の設立以来、世界各国で緊急人道支援のほか、地域再生事業や保護犬事業なども行ってきたピースウィンズ・ジャパンの活動について紹介しました。相島氏自身は、2018年にPWJに入り東京事務所でアフリカ事業担当を務めた後、2019年8月からケニアの北西部カクマに駐在し2021年1月まで現地で事業に携わっていました。カクマには、カクマ難民キャンプとカロべエイ難民居住地区があり、カクマ難民キャンプはスーダン難民の内戦によって発生した難民を保護する目的で1992年に設立されました。その後南スーダンは独立しましたが、状況が落ち着かず帰還できない人が多く存在していた中で、カロべエイ難民居住地区が2015年に設立されました。相島氏は、PWJがカクマ難民キャンプ、カロべエイ難民居住地区、そして受け入れ側の住民であるホストコミュニティの3つに対して支援を行なう中で直面する課題を4つ挙げました。1)基本的ニーズ(住居・衛生・保健等)が満たされていない、2)ホストコミュニティとの軋轢(受け入れている側の住民から、「難民だけに支援が偏っていないか、自分達にはないのか」という不満が上がる)、3)労働や移動などの諸権利が剥奪された状態での長期滞在(無気力感、希望を失った難民の自殺の増加、性とジェンダーに基づく暴力の増加に繋がる)、4)難民間の事件(暴力、軋轢など)

セミナーでの報告の様子

また、コロナ禍で難民の生活は大きく変化し、「マスクや手洗いの徹底、学校の閉鎖、集会の人数制限など多大な影響があった。学校の閉鎖は、娯楽がほとんどない難民キャンプで生活している子供達にとって、無気力感に繋がるとても深刻な問題だった」と述べました。さらに、PWJがコロナ以前から取り組んでおり、コロナ禍でも継続して行なってきた支援について主に3つ紹介しました。1つ目は、「現金給付型恒久住宅・世帯トイレ建設」という現金給付型の支援で、難民に現金を渡して建設管理や業者の選定など今まで支援団体が行なっていたことを難民自身にやってもらう手法です。この方法について相島氏は、「これはUNHCRが2018年から導入したもので、難民の主体性を重視し、難民自身の能力を生かして改善・発展していくことが大事だと言われるようになってきた。PWJもこの視点を重視している」と強調しました。2つ目の主な支援である「コミュニティ主導型総合衛生改善の適応」については、「過去には、屋外排泄が原因の病気も流行っていたが、清掃員がキャンプの清掃を行っていたこともあり、難民は自主的に綺麗にしようとはしなかった。衛生改善は自分たちの責任であることを理解してもらうために、この手法を取った。自分たちで自分たちのコミュニティを綺麗にすることを目標に掲げ、みんなで衛生改善を達成することにより、コミュニティの繋がりも強くなった」と述べました。3つ目の「COVID-19対策支援」について相島氏は、「難民、ホストコミュニティ、保健施設など向けにマスクや手指消毒液、液体石鹸の配布、手洗い器の設置を行った。また、子供達にコロナのことがあまり浸透していなかったので、子供向けのコロナ予防啓発コミックを作成し、配布した。ホストコミュニティもこういった支援の対象とすることで、軋轢の問題にも対処できるようにした」と説明しました。

相島氏はコロナ禍での活動を振り返り、実務の課題として「移動後の隔離」、「集会人数制限」、「インターネット環境」、「コロナの感染リスク」、「コロナ関連の支援増加による通常活動の遅れ」を挙げました。その上で、「このような状況下だからこそ支援する理由がある。まず一つは、既に脆弱な立場にある難民に正しい感染予防対策が取られる必要がある。コロナに関する誤情報、誤認がある中で、正しい知識を広めることが重要だ。もう一つは、コロナ禍だからこそ支援を継続し、自己肯定感の向上や地域結束に繋げ、地域の平和に貢献することが求められる。みんなで課題を解決し達成するという経験を経て、コミュニティのアイデンティティが形成され、地域の平和に繋がっていく」と語りました。

加藤氏

最後に講演を行った加藤氏は、まず自身が理事を務める平和村ユナイテッドについて、2019年に設立され現在はパキスタンとアフガニスタンで平和構築を目的とする活動をしているNGOであると紹介しました。団体名については、「平和構築は目に見えづらい難しい分野ではあるが、紛争地でも、争い事を非暴力でどう解決できるか、若者が絶望から暴力にいかないためにはどうしたら良いかを日々考え、草の根で行動している人々が各地には存在する。そういった小さな取り組みが連帯して世界のより大きな平和が築かれますように、という願いを込めて『平和村ユナイテッド』と名付けた」と述べました。

主な活動地であるアフガニスタンについて、「今、現場に行くのが最も難しい国のうちのひとつで、NGOで活動している団体はどこも苦労しており、基本的に遠隔でのコミュニケーションが主流で、メールやスカイプなどが主に使われている。私たちの拠点があるパキスタンとの国境地帯は特に、武装勢力が潜む治安が不安定な地域であり、コロナによって人の流れや物流が止まると、今まではパキスタンは隣の県に行くような感覚で仕事、学校、病院などのために移動していたが、それが制限され生活のあらゆる面に影響が出ている」と語りました。また、パンデミックだけでなく和平協議においても、アフガニスタンは重要な局面を迎えています。加藤氏は、「アフガニスタン政府(当時)とタリバンが合意をするためには、国際社会の一部である私たちは注視する必要がある。膠着状態の中で、米軍のアフガニスタン侵攻から20年になる9.11までに米軍撤退させることをバイデン政権が宣言した。米国史上最長の戦争が『終わり』を迎えると言われているが、果たしてこれは誰にとっての『終わり』なのか。アフガニスタンの人たちはそれより前から、ソ連侵攻のときからずっと戦争の時代を生きていて、戦闘主体はほかにも存在しており、米軍が撤退したところで何が終わるんだろうという、現地の人の声をよく聞く。米軍撤退は重しがなくなるという恐怖も同時に発生するので、アメリカにとっては終わりかもしれないが、現地の人にとっては未だに不安定な治安を誰が改善してくれるのかという大きな不安が残る。いかなる政治状況でも、市民団体として現地の人々と共に足元からの平和を構築していく必要がある」と述べました。

そして、具体的な活動として、今年の4月から平和村ユナイテッドがアフガニスタンのトラボラで行っている植林活動についても紹介しました。トラボラは現地の言葉で「黒い洞窟」という意味で、山岳地帯で洞窟が多く、武装勢力がゲリラ隊を組みやすい地形になっています。ソ連侵攻の時代から様々な武装勢力が基地にしてきたり、そこを狙う政府軍の空爆があったりと、激しいバトルフィールドになっていました。そんなトラボラの地で、平和村ユナイテッドは現地の住民たちと「緑の平和アクション」としてオレンジの木を植えました。加藤氏は植樹活動の意義について、「象徴的な意味も大きく、戦闘が激しかった土地に緑がある憩いの場を作りたい、長期的に平和公園を作りたい、という現地の声を形にした。将来、オレンジが実るころには激戦区トラボラの地から争いがなくなり、住民が分け合えるように、という願いを込めながら、お年寄りから若者までみんな一緒に苗木を植えた」と語りました。また、「アフガニスタンは『忘れられた国』なのではないかという思いを多くの現地の人が持っているので、『私たちはあなたたちの素晴らしい植樹の活動を見ていますよ、日本からも応援していますよ』というメッセージを送ることもまた、精神的な支えになっていると私は信じている」と強調しました。

最後に、加藤氏がアフガニスタンに数年前に行った際にある村人に言われた言葉を紹介しました。「彼は私に、『日本ではおそらくアフガニスタンというと、テロや戦争の報道しかされていないと思うが、覚えていて欲しいのは、自分たちは戦っているだけの野蛮な人たちばかりではない、本当に一部の人たちだけが戦っていて、アフガン人は平和を望んでいるということを、あなたがここにきて私たちと話し、この村で平和活動を見た者として伝えて欲しい』と言った。現地の人々の思いを、より多くの方に知ってもらうためのメッセンジャーとしての役割も、国際NGOが果たせることの一つだと思う」と述べ、講演を終えました。

サリ教授

講演を受けて、サリ教授がコメントを述べました。3名の講師に感謝を述べ、「パンデミックにより、現代社会の大きな試練、そして私たち個人、または社会として共同体のあり方について見つめ直すことが求められていると思う。優れた教師であったソクラテスは、良い教師は誰かという定義を説いたが、その中で『良い教師とは教え子に二つのことを教える教師だ。一つ目は、自分自身で考えること。二つ目は、重要なこととそうでないことを区別できること。』と言った。この二つのことを学んだ学生は自ら成長し人々の役に立つことができる」と語りました。また、講師陣に向け、コロナ禍におけるNGOの活動の中で、コロナ差別を現場で経験したことはあるか、という質問を投げかけました。

質疑応答では、NGOと他団体との連携や、発展途上国のコロナ対策を日本政府が支援することの意義、若い世代による平和構築への貢献についてなど非常に多くの質問が寄せられ、今井氏、相島氏、加藤氏はその一つ一つに丁寧に回答してくださいました。「安全管理とNGOの活動の折り合いをどうつけるのか?」という質問に対し今井氏は、「活動の内容にもよるが、救急救命のような緊急を要するものであれば、もちろん安全レベルの確認はするがある程度危険でも行う可能性はある。しかし、私たちJVCが行う教育・平和構築の分野での支援は長期的なものなので、ある特定の地域で長期的に腰を据えて活動するとなるとそれなりの安全性は必要となる。自分たちの活動内容と照らし合わせながら、バランスを取っている」と回答しました。また、「海外で活動するにあたり心に留めておくべきことは?」という質問に相島氏は、「コロナ禍で海外渡航が制限される中で、こういったオンラインセミナーへの参加や、授業内のディベートに積極的に参加して周りの人の意見・考え方を学んでいくことが大切。それはNGOでの仕事にも通じるものがある」と述べ、加藤氏は、「十人十色で色々な道がある。NGOでもいいし、国連、政府機関、企業、アーティストでもいいかもしれない。色々な分野の方のプロフィールを調べて、その人が今やっているところまでどのようにしてたどり着いたか見てみると、さまざまな道があることに気がつくと思う」とアドバイスをしました。

東教授

最後に、本セミナーを企画し、司会も務めた上智大学グローバル教育センターの東大作教授は、コロナ禍での日本の役割に関して、「自国においてコロナをどう抑制するかだけに関心がいき、世界中で感染が拡大し続けたら、結局、他の国・地域で変異株が発生し、またそれが、世界中に広がり、コロナの抑制にある程度成功していた国にも大きな被害をもたらす。その意味でパンデミックは、『全員が安全になるまで1人も安全にはならない』というのが専門家の中での合言葉になっている。日本も国内だけではなく、色々な国と協力して世界全体でコロナ禍を解決することが結局は自国の安全、経済を守ることに繋がる」と語りました。そして、一地域での紛争が世界全体に及ぼす影響について、「ある地域で紛争が続いていると、グローバルに繋がっている現代の世界では、パンデミックの対応だけでなく、地球環境問題の対応など、世界全体の人々の脅威に取り組むことが難しくなる。だからこそ、平和構築に取り組むことは、日本人の安全を守る意味でも重要なこと」と述べ、セミナーを締め括りました。