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  • クロード・カーアン(写真家・小説家)の研究
    文学部フランス文学科 永井 敦子 教授

クロード・カーアン(写真家・小説家)の研究
文学部フランス文学科 永井 敦子 教授

  • 5:ジェンダー平等を実現しよう
  • 研究

【研究の概要】
写真家で作家のクロード・カーアン(1894年ナント・フランス生、1954年ジャージー・イギリス没)は、ナントのユダヤ系の裕福な家庭に生まれた。彼女は若くして出会ったひとりの女性芸術家を、生涯のパートナーとした。彼女にとって創作活動は、家族や教育や当時の社会規範からの、解放の試みでもあった。したがって彼女の写真(セルフポートレート、コラージュ)と文学作品(短編小説とエッセー)の分析は、現代のジェンダー、フェミニズム研究に、多様な視点をもたらしうるものである。
カーアンが表現を通じて追求した自己認識や、ジェンダー的な規範の圧力からの解放の方法に対する理解を深めるために、私は彼女の時代の性にまつわる社会学的、科学的な見解を調査し、そうした社会的背景のなかで、彼女の作品が持ち得た歴史的、哲学的意味を分析している。また、彼女の両性具有的もしくは中性的なありかたに、同時代の芸術家が示した当惑や共感の意味や理由を明らかにしようとしている。

【将来の発展性】
ジェンダーは非常に個人的であるが、同時に社会的な問題でもある。したがって彼女の作品理解には、その表象が孕む社会的意味の理解が欠かせない。私はそうした観点から、彼女の写真やテキストに頻出するイギリスの文化と社会にまつわる表象の分析を行なっている。たとえばスポーツにまつわるセルフポートレートのシリーズでは、イギリスのスポーツ熱の男性的なイメージに、あえて誇張された女性性をまとわせることで、その国家主義的、軍国主義的な意図を皮肉っている。また1918年のオスカー・ワイルドの『サロメ』上演をめぐる裁判記録の発表のように、カーアンは、より直接的な社会行動としてのテキストも遺している。彼女の作品のなかに豊富に見られるイギリスにまつわるこうした事象の取り込みの社会的意味と、それが作品のなかで持つ役割を分析することで、彼女の作品がジェンダー的圧力からの解放の実践として持ち得た歴史的インパクトを、より正確に計ることができるだろう。

-永井敦子、『クロード・カーアン』(単著)、東京、水声社、2010年、全275頁。
-永井敦子、「クロード・カーアンのセルフポートレート-小さい写真-」、塚本昌則編著、『写真と文学』、東京、平凡社、2013年、177—192頁。
-永井敦子、「クロード・カーアンとイギリス」、天野知香編著、『近代の相克 3 パリII』、川越、竹林舎、2015年、327-345頁。

担当教員

永井 敦子Nagai Atsuko
文学部フランス文学科